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福岡高等裁判所 昭和39年(ネ)10号 判決

理由

控訴人の請求の理由がないことは、以下付加訂正する外、原判決説示のとおりである。これに反する当審証人林田藤吾、原審証人伊藤義生の第一回証言は、左の一に挙示援用の証拠と対比し信用しがたく、他にこの認定を動かす確証はない。

付加訂正事項

一  (証拠)を総合すれば、本件供託金取戻し請求権が譲渡された昭和三三年四月一九日当時、訴外前野利幸は、訴外本田進に対し裁判上の和解による金三〇万円及びこれに対する昭和三二年六月一日以降年三割六分の割合による遅延損害金債務を負担していた(そしてこの債務は前野利幸所有の八女郡広川町川上字下村屋敷五〇六番地宅地三一九坪外八筆の土地につき設定登記された根抵当権によつて担保されていたもので、その後一部弁済され、控訴人が本田進から譲渡を受けた昭和三三年五月二日当時は元金一三四、四五四円とこれに対する同月三日以降年三割六分の割合による遅延損害金債務が残存し、これを担保するため、前示九筆の土地中四筆を目的とする根抵当権が残存し、控訴人は本田進から右同日前示債務名義ある残債権を根抵当権とともに譲受けたものである。)に過ぎず、他に債務はなかつたこと本件供託された金一四万円は被控訴人のものであつたが法律上からいえばこれを前野利幸が被控訴人から貸与を受け一旦自己の所有となつた金一四万円を保証供託したものと解すべきであるけれども、前野利幸としては供託金として利用するために一時被控訴人に出金させて直ちに供託金を被控訴人に返還する積りで供託金取戻し請求権を譲渡したものであり、被控訴人としてもその積りで出金してやり、供託金取戻し請求権を譲受けたことによつて、供託金の返還を受けたと思つたものであるから、少くとも被控訴人は、供託金取戻し請求権を譲受けた当時、債務者である前野利幸が右請求権を譲渡するにおいて債権者を害する意思あることを認識せずに善意であつたこと、もし被控訴人において第三者として物上保証人的に自己の名をもつて前野利幸のために保証供託したとすれば、控訴人はその保証取戻し請求権に対しては本田進の債権譲渡人の地位においては、何らの権利をも有しないものであることの各事実を認めることができる。

二  原判決理由三の冒頭の以上の「各事実によれば」を「以上の各事実及び前示一挙示の証拠によれば」に改め右の終りにつぎの一文を付加する。詐害行為取消の訴は債権者の債権の一般担保たる債務者の財産の減滅を回復することを主眼とするところ、前認定のとおり債務者前野利幸の財産状態には供託金一四万円の借用と同取戻請求の譲渡によつて消長をきたすことはないので(違法執行による損害賠償債権の関係はしばらくおく)この点よりするも詐害行為取消の請求は理由がない。

三  (証拠)によれば、かりに控訴人が前野利幸に対して主張の損害賠償債権を有するとしても、同債権は特段の事情の認められない本件においては、被控訴人が供託金取戻し債権を譲受けた後に発生したものと認めるのが相当であるから、右損害賠償債権に基く詐害行為取消しの請求は、すでにこの点において排斥を免れない。また控訴人において損害賠償債権を有するとすれば、控訴人は供託金の上に質権者と同一の権利を有するので(民訴第五一三条、第一一三条参照)、被控訴人はこの質権に類する優先権の負担を伴う供託金取戻し債権を譲受けたこととなるから、控訴人は担保優先権の追求権に基づき、被控訴人の供託金取戻し請求権譲受けにかかわりなく、自己の損害賠償債権の満足を得るには、前野利幸に対して損害賠償請求の給付訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得たときは、これを債務名義として民法第三六八条及び民訴強制執行に関する規定に従い被控訴人の有する供託金取戻し請求権を差押え、損害賠償債権に基づく質権の実行であることを明示した同請求権の転付命令または取立命令を得、管轄裁判所である福岡地方裁判所または同裁判所八女支部から保証取消決定を得た上、八女支部から供託書の下付を受け、これを福岡法務局八女支局に提出して供託金の交付を受けるか、または民法第三六七条の定める直接取立ての規定に従い、前記損害賠償を命ずる確定判決があつたことを右八女支部に証明して同支部から保証供託書の下付を受け、この供託書と前記確定判決を前示八女支局に提示して供託金の還付を受けることができる(供託法第八条供託規則第二二条、二四条、第二五条、なお大審院昭和九年(ク)第一、二八一号同一〇年三月一四日第一民事部決定昭和五年一二月一三日民事第一、二八八号司法省民事局長回答参照)。

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